緊急停止プロトコル
緊急停止(HAS中断・介入移行)の判断プロトコル
このプロトコルの位置づけ
このプロトコルは、HAS Kernelの外部に位置する運用手続きである。
- HAS本体は「Doing」を定義しない
- このプロトコルは「Doing」を含むが、HASそのものではない
- ガバナンス層(運用安全)として、Kernelを補完する
医療判断との区別
このプロトコルは医療判断の代替ではない。
- ファシリテーターは医師・心理士ではない
- 診断(「この人は〇〇症だ」)は行わない
- 必要と判断した場合、専門支援(医療・相談機関)につなぐ
このプロトコルは「安全確保のために何を観察するか」を示すのみである。
基本原則
「沈黙を守る(P03)」と「緊急停止(Constitution 3)」の判断は、 以下の行動として観察可能な現象に基づく。
重要:
- これは「診断」ではない
- 内面評価(なぜそうなのか)は不要
- 観察されたこと(何が起きているか)のみで判断する
重要: 時間のカウントは行わない
P03(不快への滞留)では、沈黙の時間をカウントすることを禁じている。 しかし緊急停止は別のレイヤであり、以下の違いがある:
| 観点 | P03(沈黙の運用) | 緊急停止 |
|---|---|---|
| 対象 | 沈黙の質 | 安全の兆候 |
| 判断基準 | 場の状態(充満 vs 空虚) | 観察可能な危険 |
| 時間測定 | 禁止(カウントは介入衝動) | 不要(時間ではなく現象を見る) |
迷ったときの判断:
緊急停止の判断基準
以下のいずれかが観察された場合、HASを停止し、安全確保を優先する。
1. 生命への差し迫った危険(観察可能な行動)
- 自傷・他害の言及または予告(「死にたい」「殺したい」等)
- 自傷行為の開始(手首を掻く、頭を打つ、等)
- 意識レベルの低下:
- 呼びかけに反応がない
- 目が開かない、焦点が合わない
- 倒れる、崩れ落ちる
- 身体的苦痛の訴え:
- 「痛い」「息ができない」「吐きそう」等
- 胸を押さえる、呼吸が極端に速い/遅い
2. 応答・認識の極端な混乱(観察可能な行動)
注: 本節は、HAS Kernel(Constitution 3, Contraindications Zone 3)が述べる「現実検討能力の危機」を、診断語ではなく観察可能な兆候へ翻訳したものである。
ファシリテーターは診断を行わない。 以下の行動が観察された場合、安全確保を優先する。
- 時間・場所・人物の確認への応答が成立しない:
- 「ここはどこ?」「今は何時?」に繰り返し答えられない
- 「あなたは誰?」と繰り返し問う
- 存在しないものへの反応が続く:
- 何もない空間を見つめ、声をかけ続ける
- 「虫がいる」「声が聞こえる」と訴え、現実確認が取れない
- 会話の文脈が完全に断絶している:
- 質問と答えが全く噛み合わない(複数回連続で成立しない)
- 言葉が意味のある応答として成立しない(文脈の連続性が完全に失われている)
3. 尊厳への明白な侵害(観察可能な行動)
- 暴力の継続:
- 怒鳴る、脅す、物を投げる、殴る、等
- 身体的接触の強要
- 構造的拘束の確認:
- 離脱の自由がない(物理的に逃げられない)
- 「Noと言えない」構造(評価・処罰権限の保持)
- 選択可能性の完全喪失:
- 「やめたい」と言っても無視される
- 「休憩したい」が許可されない
判断の優先順位
1. 生命 > HAS
- 迷ったら介入する
- 「沈黙を守るべきでは?」という躊躇は、Fearである
- 後から「過剰だった」と判明しても、それは許容される
2. 介入の最小化
- 必要最小限の安全確保に留める
- 「ついでに」他のことを解決しようとしない
- 例: 呼吸が苦しそう → 休憩を提案(○)/ 問題を掘り下げる(×)
3. 主権の回復
- 介入後、できるだけ早く選択を戻す
- 「あなたはどうしたいですか?」を問い直す
- 介入を恒常化しない
迷ったときの判断ルール
以下のいずれかに該当する場合、HASを停止する:
- 「このまま続けて大丈夫か?」という不安が消えない
- 参加者の身体が長時間、極端に固まっている(反応や動きが著しく乏しい)
- ファシリテーター自身が「怖い」「これ以上無理」と感じている
停止は失敗ではない。安全装置の正常作動である。
判断の記録
緊急停止を行った場合、以下を記録する(事後検証のため):
- 何を観察したか(兆候)
- 例: 「呼びかけに3回反応がなかった」
- なぜ停止を判断したか
- 例: 「意識レベルの低下と判断」
- どのような介入を行ったか
- 例: 「休憩を提案し、別室に移動」
- 介入後、どう主権を戻したか
- 例: 「回復後、続けるか終えるかを本人に確認」
記録は、判断の妥当性を事後検証するために用いる。 「正しかった/間違っていた」の評価ではなく、次回の判断材料とする。
このプロトコルの限界
限界1: 基準は完全ではない
- すべてのケースをカバーできない
- 新しいパターンが発見されたら、このプロトコルを更新する
限界2: 最終判断は実践者が引き受ける
- プロトコルは判断を代行しない
- 「プロトコルがそう言っているから」は責任回避である
限界3: 事後的にしか検証できない
- 「あのとき停止すべきだった」は、後からしか分からない
- だからこそ、記録が重要である
Document Control
- Repo Version: v2.6.00-5-gc2fae36d-dirty
- Last Modified: 2026-01-23
- Commit: 973078e
- Author: Takeshi Kakeda