HAS 全体設計図
HAS Architecture Map Human Attunement System: 全体設計図(Map)
State over Theory. / 正しさより、状態を。
HASはフレームワークでもメソッドでもない。
関係の中で選択可能性が失われていく連鎖(自然落下)を遮断するためのセーフティーシステムである。
0. このMapの役割
この文書は HASの現在地を、実践者が見失わないための地図 である。
- 理解を深めるための文書
- 現場で迷ったときに戻るための基準
両者は役割が異なり、上下関係はない。
1. HASの核:2つのサイクル
1.1 Attunement Cycle(調律サイクル|会議中)
状態を整え、引き受け可能な選択が生まれるまでの流れ。
P01置かれた感情(Place) → P01_placed_emotion.md
P02識別された感情(Distinguish) → P02_differentiated_emotion.md
P03 不快への滞留(Hold) → P03_lingering_toward_discomfort.md
P04 引受の成立(Own) → P04_establishment_of_ownership.md
このサイクルは「正解」を作らない。
誰かが「私が引き受ける」と言える状態を作る。
1.2 位置の識別(Position Identification)
HASを「うまく使う」ためではなく、
いま自分がどこにいるかを誤解しないための地図。
4つの位置:
- 観察(Observation): 判断が立ち上がっていない
- 判断保留(Suspended Judgment): 判断を宙吊りにしている
- 仮動(けどう / Tentative Action): 試行しているが完遂を目的化していない
- 乱れ(Disruption): 継続不能、戻りたい
詳細:調律位置マップ
HAS外条件
以下の場合、HASの外にいる:
- 結論を確定している
- 完遂を目的化している
- 介入を固定している(操作モードに入っている)
HAS外にいる場合、判断が成立する前提として、
観察という選択肢が参照されうる。
2. HASの設計思想:OSではなくTS
HASは組織を制御する OS ではない。
場の状態を微調整し続ける TS(Tuning System) である。
- 理念と位置づけ
→ 02_concept.md
HASは最適化しない。 選択可能性が失われていく連鎖を遮断することだけを扱う。
3. 3層構造(Layer Model)
HASは明確な層構造を持つ。
順序が逆転すると必ず整合性が失われる。
Layer A: Philosophy(思想)
「なぜそれをやるのか」を固定する層。
- Manifesto
→ 00_manifesto.md
Layer B: Constraints(制約・安全条件)
位置・状態・判断がどのように立ち上がっているかを、自己観察するための参照文書群。
B-1: 判断の優先軸
判断が割れたときに、どの軸が前景化しているかを識別するための参照点。
- 判断参照原則
→ 03_principle.md
B-2: ファシリテータの自己観察
自己の振る舞い・状態を、HAS的視点で自己観察するためのポイント。
- ファシリテーター役にありがちな状態例
→ 05_facilitator_common_states.md
B-3: 位置の識別
自分がどこにいるかを誤解しないための地図。
- 調律位置マップ
→ 04_attunement_map.md
Layer C: Practice(実践)
現場で起きることすべて。
State Patterns(P01–P04)
→ resources/patterns/state/Techniques(任意・非必須)
→ resources/patterns/techniques/Quick Reference
→ resources/quick_reference.md
重要: Practice だけが独立すると、HASは「操作」になる。
3.5 ディレクトリ構造の意図
HASは4つのディレクトリに分離されている。
HAS/
├── core/ # 核(Kernel・Constitution)
├── docs/ # 思想・概念・制約・安全仕様
├── governance/ # 運用プロトコル・ADR
└── resources/ # パタン・参考資料・クイック参照
設計意図:
core/は変更不可(Sealed)docs/は慎重に更新される思想・仕様層governance/は運用ルール(HAS本体の外)resources/は増殖・派生を許容する実践層
詳細なファイル配置:
最新の構造は GitHubリポジトリ を参照してください。
このMapは「構造の意図」を示すものであり、ファイル一覧の正本ではありません。
4. 状態遷移の基本構造(PFA)
HASが扱うのは「議論の失敗」ではなく、
場の力学がある順序で固着していく現象である。
4.1 PFA要素の定義
- Pressure(圧力): 場を「行為」へと急き立てる不可視の引力。(例:早く決めたい、沈黙への耐え難さ)
- Fear(恐れ): 選択に伴う根源的な震え。(例:孤立、不可逆、役割の融解)
- Armor(防衛): 恐れから距離を取るための自動的な振る舞い。(例:主語の隠蔽、知性化、課題化)
※ HASにおけるArmorの扱い:
HASは、すでに展開されたArmorを解放・修正しない。
ただし、それを判断・進行・正当化の根拠として扱わない。
Armorが出ていても、進めない/決めない/評価しないことはできる。
5. 二つの遷移モデル(The Two Flows)
HASは、調律の有無によって分岐する二つの対照的な流れを前提とする。
5.1 調律なき自然落下(Unattuned Flow)
調律が介在しない場合、関係性は必然的にこの順序で硬直化する。これは失敗ではなく、構造的な帰結である。
- Pressureが立ち上がる: 曖昧さに耐えられず、行為(発言・決定)への内圧が高まる。
- Fearが駆動される: 孤立や不可逆への恐れから、視野が狭窄し、短期的な安心を求める。
- Armorが自動展開する: 正論化、一般化、他者依存によって、恐れから距離を取る振る舞いが固定化する。
- Ownershipなき行為が実行される: 「私が引き受ける」という感覚が欠落したまま、決定や発言がなされる。
- 関係性が損傷する: 結果責任の所在が曖昧になり、不信や断絶が生まれ、次のPressureが強化される。
5.2 調律による遮断(Attuned Interruption)
HASは、上記の自然落下を「止める」ためにのみ機能する。
- Pressure: 行為や決定を急がせる引力が弱まっている。
- Fear: 説得や安心化の対象として扱われていない。
- Armor: 判断や進行の根拠として参照されていない。
結果として、判断は前進せず、
P01(置く)が前提として再び参照される。
6. 構造の再帰性(Recursive Structure)
HASが扱う「選択可能性の消失」の力学(PFA)は、個人の内面から集団まで、スケールを超えて再帰的に現れる。
以下に、同一の構造が異なるスケールでどのように観測されるかを示す。
6.1 個人のスケール (Individual Scale)
内面で起きる、思考と感情の硬直化。
- Pressure: 「正解を出さなければ」「間違えてはいけない」という内的な焦燥感。
- Fear: 自分で選ぶことへの根源的な恐れ。選択に伴う孤立や責任への回避。
- Armor: 思考の知性化、感情の抑圧、他者への依存(条件付け)。
- 結果: 自分の願い(Want)が分からなくなり、他者の期待や義務(Must)を自分の意志だと錯覚する。
6.2 関係・集団のスケール (Relational / Collective Scale)
場の空気として共有される、相互作用の硬直化。
- Pressure: 「空気を読まなければ」「早く合意しなければ」という同調圧力。
- Fear: 異論を唱えることによる排除や、場の崩壊への恐れ。
- Armor: 主語の隠蔽(「私たちは」)、一般論への逃避、沈黙の回避。
- 結果: 「みんなで決めた」という形式だけが残り、誰も責任を引き受けていない決定がなされる。
6.3 器官と意志の関係(スケールを超えた原理)
観察は、何かを行うことではなく、
判断の前提に含まれうる位置の一つである。
HASが扱う「器官」は、スケールを超えて同一の構造を持つ。しかし、意志との関係は3つの状態で異なる。
- 適応: 器官が勝手に動く(意志不在)
- 適合: 器官が暴走し、正義を名乗る(意志が正当化)
- 調律: 意志が一歩引き、器官の働きを許す(意志が余地を空ける)
HASは、第3の状態だけを扱う。
7. Recovery by Design(戻りの設計)
HASは「失敗しない設計」ではない。 失敗しても、再び戻れる設計である。
戻れないことだけが危険。
8. Supporting: Governance & Design History
HASの思想・実践を支える、運用と設計判断の記録。
Governance(統治・運用)
HASを壊さないための手続き。
緊急停止プロトコル
→ governance/protocols/emergency_stop.mdSteward Judgment Protocol
→ governance/protocols/steward_judgment.mdMaintenance Protocol
→ governance/protocols/maintainance.mdPublic Relations Protocol
→ governance/protocols/public_relations.md
Design History(設計判断の記録)
HASがなぜ現在の形になったかを記録する。
- Architecture Decision Records(ADR)
→ governance/adr/
重要:
これらは HAS Kernel の外部に位置する。
HAS 本体は「Doing」を定義しないが、運用には手続きが必要である。
この分離により、思想の純度と運用の安全性が両立する。
関連文書
思想と設計
制約と判断
- 判断参照原則 — 判断の優先軸
- 調律位置マップ — 位置の識別
- ファシリテーター役にありがちな状態例 — 陥りやすい落とし穴
実践と回復
- Patterns P01–P04 — 状態遷移の構造
- Quick Reference — 現場即参照用
Document Control
- Repo Version: v2.6.00-5-gc2fae36d-dirty
- Last Modified: 2026-01-23
- Commit: 973078e
- Author: Takeshi Kakeda